生産技術の森本です。
車載ECUやパワーモジュールの組立ラインで、放熱材や接着剤の塗布工程を15年ほど立ち上げてきました。
放熱材の相談を受けると、話はいつも同じところで止まります。
「シートでいいのか、グリスなのか、ギャップフィラーなのか」。
カタログを横に並べても、これは決まりません。
比べている軸がずれているからです。
今日はその軸のほうを整理してみます。
目次
ギャップフィラーは、隙間に流し込んでから固める放熱材です
ギャップフィラーは、発熱する部品と放熱器のあいだに入れる熱伝導性の樹脂材料です。
塗るときは液状で、そのあと硬化するタイプを指します。
ペルノックスの解説でも、ペースト状で塗布するため任意の厚さに調整できる点が特徴として挙げられています。
つまり、隙間の形が読めない場所に強い材料です。
部品の高さがばらつく、公差が積み上がる、面が波打っている。
そういう箇所を、その場で埋められます。
硬化型については、信越化学工業の放熱ギャップフィラーの技術情報に、塗布時はグリース状で表面によくなじみ、硬化後はオイルブリードやポンプアウトの懸念がないと説明されています。
同社のSDPシリーズでは熱伝導率5.1〜9.5W/m・Kのグレードが並び、車載電装ユニットや電源ユニットが用途として挙がっています。
グリス・シートとの違いは、隙間への向き合い方に出ます
三者の性格を並べると、こうなります。
| ギャップフィラー | 放熱グリス | 放熱シート | |
|---|---|---|---|
| 形状 | 液状で塗布し硬化 | ペースト | 成形済みのシート |
| 隙間・厚み | 任意に調整できる | 薄い隙間向き | 製品の厚みで決まる |
| 面の凹凸 | 追従しやすい | 追従しやすい | 追従しにくい場合がある |
| 長期の弱点 | 硬化後の作り直しが難しい | ポンプアウト・乾燥 | 圧縮応力が部品にかかる |
| 作業性 | 装置での自動塗布向き | 塗布は簡単だが清掃が面倒 | 貼るだけ、ただし端材が出る |
グリスでいちばん問題になるのはポンプアウトです。
発熱体とヒートシンクの熱膨張差と熱サイクルで、材料が界面から少しずつ押し出されていく現象で、松尾産業のコラムでも長期信頼性の注意点として説明されています。
シートは貼るだけなので量産では扱いやすい。
そのかわり、抜き加工で端材が出ますし、凹凸のある面では密着が読みにくくなります。
熱伝導率の数字だけで比べると、たいてい外します
ここが今日いちばん伝えたいところです。
材料そのものの熱伝導率は、従来シートが有利とされてきました。
液状の材料は流動性を確保する必要があり、熱伝導フィラーを高濃度まで詰めにくいからです(三洋化成工業)。
ところが実装後の熱抵抗で見ると、順位は入れ替わることがあります。
液状材料は界面に密着するので、接触熱抵抗が小さくなるためです。
そもそもTIMは異種材料の複合体で、ASTM D5470-17でも「見かけの熱伝導率」と定義されています(松尾産業)。
比べるなら、同じ面圧・同じ厚みの条件で測った熱抵抗のデータを見てください。
カタログの数値だけで決めると、現場で「思ったより冷えない」が起きます。
ギャップフィラーを選ぶと、宿題は工程側に移ります
材料として素性がよくても、扱いは楽ではありません。
2液型を選んだ時点で、次の3つが課題になります。
- 混合比がずれると硬化不良につながる
- 混ぜた瞬間から可使時間のカウントが始まる
- 混ざったかどうかを目視で判定できない
3つ目が厄介です。
兵神装備の技術コラムでも、主剤と硬化剤の色が似ていて色調では判断できないこと、粘度が高く流量計での計測が難しいことが指摘されています。
材料側の性質も装置に効いてきます。
ギャップフィラーは研磨性のあるフィラーを高濃度で含むため、装置を摩耗させやすいとGracoの解説でも指摘されています。
裏を返せば、装置で塗る前提の材料だということです。
端材が出ず自動実装に向くという評価は、そこから来ています。
計量から混合、吐出までの一連の動きは、文章より映像のほうが早く飲み込めます。
協働ロボットで放熱用2液ギャップフィラーを混合吐出しているデモページでは、実際の動作が動画で確認できるので、社内で工程を説明するときの材料になります。
まとめ
ギャップフィラー、グリス、シートは上下関係ではなく、隙間との付き合い方の違いです。
隙間が大きくて形が読めないならギャップフィラー。
薄くて平らな面ならグリス。
形が決まっていて貼るだけで済ませたいならシート。
まずはこの当たりをつけて、そのうえで熱抵抗のデータと工程の手間を突き合わせてください。
材料の性能表は、工程の絵とセットで初めて意味を持ちます。
最終更新日 2026年8月6日 by dustriah



